「悪い」の反対は「善い」じゃない

先日(3日前)の話の続き。
幸せと正しさに関する齟齬が、20世紀的な知の特徴を表わしている
ようだと書いたが、そのことをもう少し掘り下げてみたい。
前掲書をおもしろいと思ったのは、そのあたりの事情が流れるように
書かれていたからでもある。
少々長くなるが、引用。
「社会科学では、長所について学ぶために、当然ながら長所を研究
 している、と思われるかも知れない。が、実際ではそうではない。
 ここ100年ほどは、よいものは悪いものの反対だから、よいものを
 理解するには、悪いものを研究してその結果を逆に利用すべきだと
 いう考え方が優勢だった。かくして、喜びについて知るために、
 鬱病やノイローゼが研究された」と。
要するに、幸せな結婚生活を研究するために、幸せな夫婦を対象に
するのではなく、うまくいかなかった夫婦を対象に研究し、それを
裏返そうとしてきたわけである。
結果、「正しい相互理解」という行動規範が出てきたものの、実は
それら(正しい理解と幸せ)に相関関係が薄いことは先日見た通り。
つまり、「よいものは悪いものの反対ではない」という、方法論の
問題が浮かび上がってきたわけである。
が、そうした否定の力学こそ、20世紀後半にピークを迎えた、近代
的知の一つの大きな特徴だったように思える。
革命、反抗、否定神学
サブカル的なレトリックはいつしか主流になってしまい、お互いが
お互いを否定しあう、力の削ぎあいばかりが目立つようになった。
結果として、ずいぶんストレスフルな社会になってしまっている。
さて、以前にも書いたが、世紀が明けても10年くらいは前世紀を
引きづるものである。
その意味では、ここらあたりが本当に21世紀らしい文化が生まれて
くるタイミングなのかも知れない。
たとえば、個よりも共生に比重が移るなど。
それはまるで、逆の意味でのルネッサンスのようである。