東方の宝

海野弘・小倉正史著『現代美術』読了。
コンパクトにまとまった、大変良い本である。
特に、海野さんの序文がいい。
1988年初版ということだから、もっと以前に読んでおきたかったと、
後悔しきりの一冊だった。
「東方の三博士(ヒロシ)」と言われるお三方の中で、海野さんには
長い間ご縁がなかった。
1988年当時(というか今でもだが)わたしは高山宏さんにメロメロに
なっており、その朋友ということもあって荒俣宏さんの本には何冊か
接していた。
が、海野さんの著作は手に取るきっかけがなかったのである。
少しづつ引っ掛かるようになったのは、デザインの仕事をするように
なってからだった。
いや、そう言えば、当時もデザイン畑の学者さんだと思い込んでいた。
アール・ヌーボーの紹介で名をはせたところからすれば、その認識も
あながち見当はずれではなかったのだろうが、どっこいそんな枠に
おさまる人ではない。
脱領域的という点では、三博士中随一かも知れない。
また、その文章は理論的であるのに固くなく、博学なのに嫌味がない。
恥ずかしい無知に入ることだろうが、雑誌『太陽』の編集長だった
経歴を今回あらためて知り、「なるほど!」と思った。
高山さんのような怨念的知識欲や荒俣さんのような変態的蒐集欲とは
違う、ある種の洒脱さが感じられるのはジャーナリズム出身者だから
なのかも知れない、と。
高山さんの文章が多く掲載されたのは『ユリイカ』ないし『現代思想
だった。荒俣さんは『遊』。
なるほど、初期に関わった雑誌に、それぞれの特色が如実ではないか。
ともあれ、お三方とも「凄い」の一言。
「東方」に生まれ、日本語が読めて良かった。