(70年代的)ヒーローと道化

一昨日、『タイガーマスク』について少し触れた。
桜庭和志が憧れたことで有名なヒーロー。
彼は小さい頃の志しを貫徹して、プロレスラーになった。
わたしの場合は絵を描いたり、スーパーの袋(当時はビニール製では
なく、紙製だった)に穴をあけ、顔を描いてかぶったりしていた。
戦うことよりも、そのヴィジュアルと造形に憧れた次第。
桜庭ほど華々しくはないが、デザインの仕事がそうした遊びの延長線
上にあったとすれば、それも一つの達成と言えるだろう。
タイガーマスク』とは、かくも憧れを誘うマンガだった。
理由はいろいろあるが、メッセージが等身大だったからかも知れない。
タイガーマスクが目指したのは、世界平和や人類の未来といった大げさ
ものではなく、「フェアに戦って勝つこと」と「自分を慕ってくれる
子供たちの幸せ」だった。
良いテーマである。
ただし、あらためて考えてみると、おかしなところもたくさんあった。
たとえば、悪の秘密結社と目される「虎の穴」。
まずは、その目的がよく分からない。
反則を極めた悪のプロレスラーを生み出すのはいいが、だからといって
世界征服ができるわけでもない。言ってしまえば、プロレスの一興行
団体である。ファイトマネーだってきちんと払う。
ともあれ、タイガーマスクは悪の巣窟で鍛えられながら、子供たちが
自分と同じ轍を踏まないよう、その組織に反旗をひるがえしたのである。
ちなみに、70年代にはそうした「組織を裏切る」ヒーローが多かった。
デビルマンしかり、仮面ライダーしかり、サイボーグ009しかり。
一度は悪の組織に属しながら、やがて組織を裏切って正義のヒーローに
なる、という設定。
これには相応の理由が考えられるのだが、少し長くなるのでまた今度。
ともかく、そうしたヒーローたちは、単純に光の側に属するのではなく
光と陰の両方に属する存在だった。先だっての話で言えば、王よりも
道化に近いということ。
そう。
道化への憧れは、70年代のテレビ・ヒーローにもつながるのである。