ハニートラップ

帰りの電車。
入口あたりに立っていると、ドアがしまる真際に女の子が
一人乗ってきた。
年の頃は20代半ば。
髪が長く、ちょっと可愛らしい感じだった。
その子はドアの窓ごしにずっと外を見ていて、時折携帯で
メールを打ったり、窓に息をはきかけてハートの落書きを
したりしていた。
何と言うか、ちょっと幼い感じである。
が、突然クシャミをして、その反動で窓ガラスにおでこを
ゴンッ!
「アイタッ!」
頭をぶつけた音も、思わず上げてしまった声も思いのほか
大きく、わたしは笑いをこらえるのに苦労した。
ただし、まわりを見ると、他の人は全く反応していない。
えぇ〜っ、おもしろかったじゃん、今の…。
当の本人も何ごともなかったかのように、外を見ている。
あぶない、あぶない。
それで笑っていたら、わたしが恥ずかしかったわけね。