マイナー志向の心意気/後編

昨日、「道化に憧れる」と書いた。
それが大学時代に出会った本の影響であることもつづった。
しかし、大本のマイナー志向は、もっと前からつちかわれていたはず
である。
とかく自己認識というものは、あてにならない。
その前提を受け入れた上で、わたし自身はマイナー志向の根っこを
幼少期の落書きだと思っている。
われわれが子供の頃には、まだまだ日本は貧しく、モノも今のように
あふれてはいなかった。
そんな時代に落書きできたのは、もっぱら折り込みチラシの裏面。
要するに、いらない紙の背面である。
新聞には、上質紙・片面印刷のチラシが5枚に1枚くらい混じっていて、
その裏がわたしの遊び場だった。
仮面ライダーウルトラマンといった、テレビマンガのヒーローを
そこに描いたものである。
「裏」面というのがポイント。
図画の時間に使われる紙、あるいはとかく「正しい」世界のものが
「表」面を使うのに対して、わたしの楽しみは「裏」面にあった。
つまり、王の世界が表(=光)だとすれば、わたしの関心は最初から
裏(=陰)に向かっていたわけである。
このあたり、山口昌男の周辺理論にちょっと重なる。
やがて日本は物質的な豊かさを獲得し、チラシの世界から裏面は無く
なって(つまり両面印刷になって)いった。
しかし、表を使う王の振る舞いでは、世界は半分しか埋まらない。
失われた、あるいは見えにくくなった裏面を求めたいのである。
その心意気を忘れないよう、背中に「裏」という字の入れ墨を彫った
(はずはない)。